海外で歯科医師として働くには〜 Bloom開業の舞台裏2〜

「ロンドンで歯科医師として働く」
そう聞くと、少し遠い話に聞こえるかもしれません。
私にとっては、20年前のある出会いと実感が、その最初の一歩でした。

留学中に知った“海外で働けるという道”

2004年から2005年にかけて、私はロンドンの大学院に留学していました。
その1年間、現地に住む日本人の方々から、歯科に関する悩みや不安の声を何度も耳にしました。

「どこに行けばいいのか分からない」
「保険と自費の違いがよくわからない」
「子どもの歯を安心して診てもらえる場所がない」

そんな声に触れるうちに、私は自然とこう思うようになりました。

「ロンドンで、好きな歯科の仕事を、好きな英語でやってみたい」

その頃、同じ大学院に通う仲間の一人が受験していたのが、イギリスの歯科医師国家試験にあたる制度――学生ビザは働くことができるので、博士課程など長く滞在する場合、英国で収入を得たかったのでしょう。
当時は「IQE(International Qualifying Exam)」という名称でしたが、今では「ORE(Overseas Registration Exam)」と呼ばれています。

「外国人でも、イギリスで歯科医師として働けるんだ」

それを知ったことで、私の中に「いつか挑戦したい」という思いが芽生えました。
子育てがひと段落したら、またロンドンで暮らしてみたい――そんな気持ちも、受験を後押ししました。

イギリスで歯科医師になるには?――OREという関門

私が受験したOREは、EU圏外の歯科医師がイギリスで資格登録するための国家試験です。
イギリスでは、General Dental Council(GDC)に登録されなければ歯科医師として働くことはできません。

試験は2段階で構成されており、受験前にIELTSなどの英語スコア(平均7.0以上、各6.5以上)の提出も必要。

  • Part 1(筆記試験):歯科医学の基礎、診断、治療計画、法的・倫理的知識などを問うマークシート形式(2日間)
  • Part 2(実技試験):実際の患者役への説明、技工、臨床判断、緊急対応を含む実技(2日間)

特に難しいとされるのが、**Part 2の「治療計画と患者説明」、そして「マネキン実技」**です。単なる語学力ではなく、患者の不安をくみ取り、現地で通じる自然な表現で安心感を与えるコミュニケーション力が求められる「患者説明」と、ミリ単位で厳しいチェックが入る実技は、繰り返しの練習が必要。

さらに、合格後も**GDC登録にはIELTSなどの英語スコア(平均7.0以上、各6.5以上)**の提出が必要です。

英語圏の他国では?――アメリカ・カナダ・オーストラリアなど

私自身はイギリス以外の国での受験経験はありませんが、
OREの準備をしていた当時、アメリカやオーストラリア、カナダ、ニュージーランドといった英語圏の国々の制度についても調べました。
以下に、すでに日本で歯科医師の資格を持っている人が、海外で歯科医師として働く方法の簡単な概要と特徴だけをまとめます。

🇺🇸 アメリカ(USA)

  • 米国の歯科大学(4年制)に2年間編入(AASPID/IDPプログラムを卒業する)
  • 卒業後に国家試験(INBDEなど)と州ごとのライセンス申請
  • Residency programという専門医育成のための大学院に入り、国家試験を受ける。ライセンス申請受入可能な州は限られる。

🇨🇦 カナダ

  • **NDEB(National Dental Examining Board)**制度あり
  • 基本的に2年の編入+国家試験のルート。アメリカに近い仕組みです。
  • 留学・生活コストは高めですが、取得後は永住に近づく選択肢も。

🇦🇺 オーストラリア

  • ADC(Australian Dental Council)試験に合格すれば登録可能
  • 筆記試験+実技試験、英語要件あり(IELTSなど)
  • イギリスのOREと似ており、再教育なしで受験できる制度としては貴重

🇳🇿 ニュージーランド

  • ADCと相互認証あり
  • イギリスやオーストラリアの一部大学卒業者は無試験登録も可能(日本の大学は対象外)
  • 一般的にはNZDREXという国家試験を受験して登録する形です

アジアで歯科医師として働くという選択肢

英語圏以外にも、アジアで働くことを考える方も増えています。
私自身は経験していませんが、調べた範囲で以下のような制度や実例がありました。

🇸🇬 シンガポール|外交ルートによる特例制度あり

シンガポールには、日本との政府間文書(Note Verbale)により、
最大15名の日本人歯科医師が、日本人患者のみを対象に診療できる制度があります。

  • SDC(シンガポール歯科評議会)登録・審査が必要
  • 指定クリニック内・監督医師のもとで診療可能
  • 明文化された合法的制度があり、治療行為も可能

🇨🇳 中国(上海)|医業許可証による実診療が可能

中国では、外国人歯科医師が診療を行うには**医業許可証(1年更新)**が必要です。
たとえば、上海の「グリーンクリニック」では、正式に許可を得て診療している日本人歯科医師がいます。

  • 対象は主に日本人患者、施設も限定
  • 治療行為が可能な数少ないアジア圏の事例

その他のアジア諸国|制度はあるが正規就労は難関

以下の国々にも就労例はありますが、制度上の制約が大きく、主に相談・補佐的立場にとどまることが多いようです。

  • タイ:国家試験・タイ語必須。一部で相談役として勤務例あり
  • マレーシア:永住権保持者に限り個別審査で登録可能な場合あり
  • 香港:大学や病院での期間限定登録はあり。一般臨床は困難

制度が「明文化」されている国は意外と少ない

イギリスのORE制度のように、国全体として制度が整備され、平等に挑戦できる道が用意されている国は、実はごくわずかです。

そのため、どの国で働くにしても、制度の調査と事前準備は不可欠です。
ここで紹介した情報は、あくまでも簡易的に調べたものであり、実際に検討する方は信頼できる情報源で必ず再確認をお願いします。

次回予告

第3回:「すべての予定が止まった日――履歴書を送るはずだった日に」
挑戦を始めようとしたその日、母の病気が見つかりました。
計画は止まり、夢は遠のいた。
でもあの“止まった時間”が、いまの挑戦を支えているのかもしれません。

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